「両親はその日でも大丈夫だって。」
 
 
隣を走る彼女が言った。
皇居を2周走り終え、3周目に入ろうとしていた。
3周目に入ったのを確認して、僕は答えた。

「わかった。」
 
 
初めて一緒に皇居を走ってから、2年が経とうとしていた。
それ以来毎月1回は、一緒に皇居を走っている。
同じレースにも出た。

バツイチ同士なので、お互い慎重だった。
それでもゆっくりと愛を育み、白黒だった未来が徐々に色づき始めていた。
深まる秋とともに。
 
 
***

年末の休みを利用して、彼女の実家を訪れた。
こういったものは、何度経験しても緊張する。

彼女のお母さんが出迎えてくれた。

「あれ。お父さんは?」

「いつもの公園に走りに行ったわ。」

彼女の問いかけに、お母さんは笑いながら答えた。

「私たちも走りに行こうか!」

彼女の提案で、僕らも走りに行くことにした。
念のためランニング道具を持ってきていて良かった。

お父さんが走っているという公園に向かった。
道すがら彼女に聞いてみた。

「お父さんいくつだっけ?」

「来年70歳よ。」

「その歳で走ってるなんて、凄いね。」

「マラソンバカなのよ。今もほぼ毎日走ってるみたい。」

「そりゃ凄い。大会とかも出てるの?」

「出てるみたいよ。50代の頃はフルマラソンで3時間を切ってたらしいわ。」
 
 
嫌な予感がした。
 
 
***

公園には、1周約1キロのジョギングコースがあった。
たくさんの人が走っていた。

「あっ、いたいた。」

彼女の指差す方向には、Tシャツに短パン姿で走るお父さんがいた。
とても70歳には見えなかった。

僕らに近づいてくると、彼女に笑顔で話しかけた。
彼女が僕を紹介してくれた。

緊張しながら挨拶をすると、

「君も走るの?」

と聞かれた。

「はい。お遊び程度ですが。」

「娘とはお遊びじゃないよな?」

いきなりの洗礼だった。

「はははは。冗談だよ。どれ、一緒に走りながら話そうか。」

「あっ、はい。」

「走りながらだと、腹を割って話せるからな。」

そう言うと、不敵な笑みを浮かべながらお父さんは走り出した。
僕もその後を追った。
彼女は一人でゆっくり走るみたいだ。

男同士、走りながらサシで話そうって事か。
いいでしょう。
じっくり話しましょうよ。
 
 
***

しかし、お父さんのスピードは速かった。
息が上がって、話どころではなかった。

もしかして、試されてる!?
僕はお父さんに必死でついていった。

3周目には彼女を抜いた。
お父さんとは、まだ一言も会話をしていなかった。
いくらなんでも、ガチ過ぎるだろ。

5周を走ると、お父さんは急にペースダウンした。
そして僕の方を振り向き、右手を差し出してきた。
その手を握ると、お父さんは力強く握り返してきた。
 
 
「娘を頼むな。」
 
 
***
 
その後は、ゆっくり走りながら話をした。
 
 
話した内容は、僕のことでもなく、彼女のことでもなかった。
 
 
ただ、『走ることについて』語り合った。
 
 
 
*これは、このブログにインスパイアされた僕の病的な妄想です。
 
 
 
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